2005年07月13日

●少女Aを巡る優しい男たち

「いやあ、それにしてもすがすがしい朝だ」
午前9時、目が覚めた。
「今日は一日のんびりするぞお。何たって、昨日の総会はハードだったからなあ」
大きく伸びをしたそのとき。 ジリリーン。おおっと、電話だぜ。朝からうるせえな。
「はい、モシモシ」
「あの、私、Nの母ですけど」
「・・・」
「実はウチの子、まだ帰っていないんですが」
窓の外に溢れる朝日が明るい。にもかかわらず、私の心は果てしない深淵に落下していく。
「昨日、天文同好会の総会に行くって家を出たきり・・・」
知らないとは言えない。
「心当たりを探してみます」
とりあえず電話を切る。まずは朝飯が食いたいが、コトは一刻を争う。 空腹を抱えながら、まずは最後までいっしょにいた井川氏に連絡を取る。何度目かのコールの後、眠そうな声で井川氏が電話に出た。氏によれば、昨夜は一晩中、Nにつきまとわれ、一睡もしていない由。
「それで? ヤツはそれからどうしたんだ?」
更に尋ねると、井川氏、ぼそぼそと、
「うん。早野くんの家に行くって電車に乗った」。
目の前が暗くなる。早野くんの家は藤沢だ。 気を取り直し、早野くんの家に電話をかけるが出ない。 清水氏にも電話。
「きのう、2時までケーサツにいた。ねむいよお」
とのことだが、とりあえず井川氏と二人、家に来て貰う。 10時、ようやく早野くんと電話がつながった。
「ウチにいるよ。なんでこうなるの?」
重く恨めしげな早野くんの声。
「オレにもわからん。なんにしても何とかしてくれ。頼む」
「わかった。今からそっちに連れて行くよ」
清水、井川の両氏は一度、帰宅。 14時、いま東大和市駅に着いたという早野くんからの電話で、清水氏と二人、ハスラーとCBを連ねて駅へ向かう。 駅には、疲れ切った顔をした早野くんと、やはり迎えに来たらしいNの母親、そしてべそをかいている本人がいた。
母親がいるのだから、私たちがあれこれ言うすじあいではない。とりあえず家出少女は、母親に連れられて帰る。
「いやあ、急に電話があってさ。藤沢の駅にいるって。参ったよ。今日は用事があったのに」
いつも爽やかな早野くんの顔が、ひどく憔悴している。
「それにしても、なんで早野くんなの?」
「わからん。何もかもわからないことだらけだ」
「早野くん、優しいからなあ」
井川氏がぽつりと呟く。
「おまえはどうなんだよ。朝までいっしょにいたんだろ」
清水氏のつっこみに、
「いや。ははは。そ、それは、ボクも優しいからさ」
答えになっていない井川氏である。
「じゃあ、ボクはこれで」
帰りかける早野くんを、
「まあまあ、せっかく来たんだから」
と引き留め、二時間ほどあれこれ話す。
「あの子は、これからもいろいろあると思うよ」
早野くんの言葉に、井川氏がうなずく。
「やっぱりあいつら、優しいんだな。それがいいことか悪いことかはわからないけどね」
皆が帰った後の、結論めいた清水氏の言葉である。