2005年12月09日

●あの頃はなぜあれほど馬鹿なことばかりしていたんでしょう。

1983年11月12日(土)。

私と小島さん(現在の奥さん)は、夜なお暗い道を手探りで歩いていた。
夜なお暗い、という表現はおかしい、そろそろまっちゃんもヤキが回ってきたか、と思った方もいるかもしれない。たしかに、本来は「昼なお暗い」と言うべきである。が、今回、私は、あえてこのように表現をした。それが適切だからである。
たとえ夜であっても、月明かりや星明かりで、屋外にいる限りは、真の闇夜にはなかなか出会えない。目が慣れてくると、歩ける程度には周囲が見えるものだ。が、今、私たちが歩いている御岳山の登山道。真の闇である。それこそ鼻をつままれてもわからない。星が見えれば足もとぐらいはわかるのだろうが、びっしりと生い茂った木が星明かりを完全に遮ってしまっている。
持参した懐中電灯は、何と電池切れであった。瞳孔が限界まで開いているのがわかる。目が筋肉痛になりそうである。ときどき道を踏み外しながらも、ようやく稜線へたどりついた。木が低くなり、頭上いっぱいに星空が広がる。
足もとも明るくなった。ほんのかすかな明るさだが、星明かりという言葉を実感する。
長尾平には、先発隊の、清水、井川、尾崎、永島、山崎、五島、古谷、松沢、金川の9名が待っていた。今夜は、星雲・星団課主催の「星雲・星団観測講習会」なのである。
快晴だ。五島氏持参の25センチドブソニアンもある。さっそく25センチドブでM42を見るが、本当に鬼のようによく見える。

2006_m42.jpg

夜半過ぎまで、25センチと松沢君の12.5センチ反射、永島さんの7センチ屈折、小島さんの7センチ屈折で観望。後半は、ほとんど酒盛りとなる。
夜明け近く、隣で騒いでいる高校生グループの馬鹿笑いに怒りながらシュラフる。めちゃくちゃに寒い。
騒音と寒さで眠れず、7時頃、皆、起床。
昨夜購入したセブン・イレブン弁当を食すが、激寒のためにほとんど石化しており、心底まずい。あまりまずいので山崎氏に進呈しようとするが、けしからぬことに山崎氏、
「ああ、野辺山高原弁当かぁ。それ、いらない」
とのたまう。
「しばらく日光で暖めれば柔らかくおいしくなるよぉ」
アドバイスしてあげたが、
「じゃあ、自分でやれば」
山崎氏の返事はつれない。
「食べ物を粗末にしちゃいけないんだ」
ぶつぶつ言いながら弁当を日光で暖めていた私は、ふと、高校生グループが帰った後のテーブルに、数種類の袋菓子が残されているのを発見した。
「おお、ここにも食べ物が。ありがたいことじゃ」
さっそく皆に勧める。
「お菓子、食べたいよね。ほらほら、おいしいよ」
しかし、これまたけしからぬことに、
「そんな食べ残しなんかいらないもんね」
誰一人として口にしようとせぬ。
いかなる展開か、ここから突如、男の勝負が始まることとなった。じゃんけんで負けた者が、食べ残しのチョコプリッツを一本ずつ食べるのである。

IMG_1500.JPG

最初に負けたのは五島氏。
「これ、なんかぶにょぶにょしてるよぅ」
ぼやきながらプリッツを口に運ぶ。
「一本ずつじゃ、なかなか減らないなあ」
清水氏の発言以降、次第に一回あたりの本数が増えてくる。
「さあ、あと二回で終わりだよ。うーんと、次に負けた人は、そうだな」
清水氏、自分の食べ残しのカップラーメンをテーブルに置いた。
「ここにプリッツ5本を浸して食べよう」
皆の顔が歪む。
じゃんけんぽん!
「えーっ! マジっすかぁ!」
新入会員の金川氏、ぶりぶりに怒りながら、すっかり冷めたラーメンの汁にプリッツを浸す。目をつぶって口に入れる。
「どう? イケるだろ?」
井川氏の声に、金川氏、何かに耐えるように無言である。
「いよいよ最後の勝負だ。今度は、えーと」
しばらく思案した清水氏、
「残ったプリッツ全部をここ(ラーメンの残り汁)に入れて一気飲みしよう」
皆の顔を見回す。誰もが無言である。
「男ならやるっきゃねえよな」
いつもの決めぜりふを、ゆっくりと清水氏が口にする。悲壮と言うほかない皆の顔、顔、顔。
じゃんけんぽん! 
誰もが必死である。そりゃあそうだよね。ただでさえ湿気を吸ってぶにゅぶにゅしているプリッツを、清水氏が食べ残したラーメンに入れて一気飲みなんてさ。
さすがに皆、必死だ。なかなか勝負がつかぬ。それでも、いつかは運命の決するときが訪れる。
「じゃんけんぽん!」
とたん、ガバとばかりにテーブルに倒れこむ尾崎氏。
「みんな、本気じゃないよな。これ、あまりにエグくない?」
テーブルに置かれているカップラーメンの器を見つめる。容器の内部には、茶色く濁った汁の中に、ねぎ、伸びきったラーメンとおぼしきもの、ぶよぶよに膨らんだ10数本のプリッツ、そこから溶け出したチョコレート、その他、得体の知れぬ物体が浮き沈みしている。
「男なら飲むっきゃねえよ」
清水氏、ワンパターンだが、誰もが抗えないフレーズを再び口にする。
苦悶の表情を浮かべて、まだなみなみと汁が残っているラーメン容器を見つめていた尾崎氏だが、やがて静かに容器を掲げた。
「箸、いる?」
言わずもがなの井川氏の言葉が、決断を促したようだった。ゆるゆると容器に口をつけた尾崎氏、そのまま一気に飲み干す。いずれもぶよぶよした内容物が、尾崎氏の口中にのたくりながら飲みこまれていく。
「おー! 男だ!」
全員が立ち上がって褒め称える。
「食べ物を粗末にしちゃいかんよ。フォッフォッフォッ」
トイレに向って走り去る尾崎氏の背中を見つめながら、清水翁が呟いた。