●随筆「秩父地学旅(前編)」
秩父へ行ってきた。
父の四十九日法要で東京へ出てきたのだが、そのついでに前々から行きたかったいくつかの場所を訪ねたのだ。
春爛漫を思わせる陽気と晴天である。西武線の車内は居眠りしたくなるほど暖かい。飯能から乗り換えた秩父線の電車はボックスシートで、小旅行ではあるが旅気分が盛り上がる。
西武秩父から連絡通路を歩いて秩父鉄道へ。
秩父鉄道は東京近郊の鉄道にしてはローカル色の強い路線で、1時間に2本程度しか列車が来ないのだが、運良く5分程度の待ち時間で下りの三峰口行きがやってきた。
閑散、とまではいかないもののほどよく空いた車内は、日ざしが差しこんで、先ほどの西武線と同じく駘蕩とした空気が漂う。地元のおばさんが、ロングシートに長々と寝そべっている。
二駅目が最初の目的地である橋立鍾乳洞のある浦山口駅。山間の駅の改札を出ると、五分咲きの梅が馥郁たる香りを漂わせている。古びた駅舎の前にたたずんで日ざしを浴びていると、何だか桃源郷にいるようだ。
橋立鍾乳洞までは山道を10分弱。このところ、以前に交通事故で痛めた右足が痛むため、たいしたことのない勾配がやや辛い。
溶食された石灰岩の岩肌を横目になおしばらく歩くと、秩父札所のひとつであるお堂にたどり着いた。
お堂の背後に、天を突くような威容で石灰岩の大岸壁が聳え立っている。まずお参りを済ませてから鍾乳洞を探勝するのがスジなのだろうが、私は迷わず鍾乳洞を目指す。
鍾乳洞見物は以前からの私の趣味である。学芸員資格を取得した際の専門が地学と生物学なので、鍾乳洞や断層、地質調査は趣味、というよりは仕事に近いかもしれない。
いずれにしても好きなことなので、全国あちこちの鍾乳洞や地形を見て歩く。東京周辺の鍾乳洞は大抵、歩いたが、ここ、橋立鍾乳洞だけは機会がなかったために、今回、思い立って訪れた次第なのである。
鍾乳洞内部はごく狭い。観光洞だから照明も完備され階段や手すりも整備されてはいるのだが、基本的に竪穴構造の洞内は狭い上に腰を屈めなければ歩けない天井の高さだ。頭をぶつける人も多いだろうし、これだけ狭いと体格の良い人はつっかえることはないまでも、相当に難渋するだろうと思われる。
鍾乳石やフロースストーン、カーテンといった2次生成物はそこそこ見られるものの、水脈が変わったためか、鍾乳洞自体の成長はすでに止まってしまっている。生成途上の鍾乳洞でよく見られる水流や滝、ぽつぽつ落ちる水滴やカーテンの表面をぬらりと濡らす水などはまったく見られず、全体に打ちっぱなしのコンクリートのような乾いた粉っぽい印象だ。
ゆっくり回っても20分ほどだったので、もう一度入洞する。竪穴構造なので、階段、というよりハシゴが数箇所に設備されている。足の痛む身としてはしんどい構造である。
それでも満足して浦山口駅へ戻る。腹が減ったので、近くのコンビニでおにぎりとパンを購う。
ふたたび秩父鉄道の人となり、20分ほど電車に揺られて、上長瀞駅で下車。次の目的地は、最近、リニューアルされた「埼玉県立自然の博物館」である。
(写真:橋立鍾乳洞内部。ケータイしか持っていなかったのでしょぼくてすみません・・・)
