●詩「劇場」
水晶で作られたその舞台で
踊りつづけているのは誰でしょう
背景には数知れぬ銀河が
光の速度で遠ざかり
フットライトは淡い彗星の輝きです
天井からは切り抜かれた月が吊り下げられ
超新星のスポットライトが
そのひとを照らしつづけているのですが
あまりに強く照らしすぎたのでしょう
そのひとの顔は紫に灼け焦げて
どんな表情も
私にはもう読み取れなくなっているのです
それでも
そのひとの踊りは美しくあでやかで
だからこそこの劇場は
重力のバランスを保ちつづけていられるのかもしれません
しわぶきの音すらしない観客席
満員の観客は誰も真っ黒な表情で
良く見ると
それぞれの顔のずっと奥
やはり燐光を放つ銀河が無数に浮かんでおり
それはそれで
危うげな平衡を保ちつづけて
そんな息づまる静寂のなか
この私にしても
やはり常に重心計算を続けながら
それでも息を殺して
じっと舞台に見入っているようなのです
*星の詩、といえばそうだし、星とはあんまり関係ないといえばそんな気がするし・・・、という作品。
ちょっと重苦しく暗い雰囲気を出したかったんですよね。
人は誰でも危うげな平衡を保ちながら、それぞれの舞台で孤独な舞踏を続けているのかもしれません。