皆既日食シリーズ、今回は日食翌日に寄港した父島の滞在記です。
原付バイクをレンタルして過ごした父島の一日。
さてさて、まっちゃんは何を見、何を経験し、何を想ったのでしょうか。
今回は、紀行文風にまとめました。書くの、けっこう大変だった・・・。
☆ ☆ ☆
7月23日午前7時。
「ふじ丸」は、父島の二見湾に入港していた。船窓には、緑濃い山なみと朝の港がいっぱいに映っている。久々に見るような気がする陸地の営みだ。
隣のベッドにogawa嬢の姿はすでにない。シーカヤックのツアーに参加するため、一番で朝食を摂り、すでに出かけてしまっている。無事、日食を見ることができ、すっかり弛緩してウダウダ寝坊していた私とは大違いである。
ogawa嬢以外の同室3名、ウダウダ組は、まことにのんびりと朝食を摂った後で、やはりまことにのんびりと島へ向かうランチに搭乗した。船内に人影は少ない。多くの勤勉な乗客は、すでに父島へ上陸してしまっている。
桟橋に接岸したランチから降りると何とも暑い。いっしょにランチに乗ってきた同室の二人と別れ、サンダルをペタペタ鳴らして、私は島のメインストリートを目指す。
サンダル。リゾート気分だから?
否。本当は私も靴が履きたい。ましてやこれから島内をバイクでツーリングしようというのである。常に安全に留意する品行方正なライダーの私としては、サンダルでバイクを駆るのはやはり避けたい。
なのになぜサンダルか。
そう、このブログをきちんと読んでくれている方は知っている。昨日、なぜか皆既の真っ最中に新品の靴が崩壊してしまったことを。
というわけで、昨日以来、ずっとサンダルを友として私は歩き続けていたのである。
ささやかなメインストリートをペタペタ歩き、予約を入れておいたレンタバイク屋へ。
原付スクーターとヘルメットを借用した私は、おもむろに窓口のおねえさんに訊ねた。
「あのー、この近くに靴屋さんはないですかねー」
おいしいお店はどこかとか、観光名所はどこかという問いを恐らくは予期していただろうおねえさんは「は?く、靴屋ですか?」と目を白黒。
それでも、気を取り直したおねえさんは親切に靴を売っているお店を教えてくれ、勇躍した私は、いざ、バイクにうちまたがりエンジンをかけた・・・はずだが、あれ?どうやってエンジンをかければいいの?
モタモタしている私に、バイク屋の兄ちゃんがめんどくさそうに「そこ。セルがあるでしょ。そこをくいっと」。
ようやく響く2ストロークのエキゾースト。
「あ、どうもどうも。いや、ふだん大きいバイクしか乗ってないもんで。あはは」
無意味な言い訳をしつつ、アクセルをひねって走り出す。
考えてみれば、これまでずいぶん多くのバイクに乗ってきたが、スクーターというものに乗ったことはほとんどない。なので、発進時にはどうしても左手に握ったブレーキレバーを慎重に離してしまう。クラッチじゃない、ということはわかっているが、体が反応してしまうのだ。やっぱり俺って真のライダー?と思いながら、慣れないスクーターでよろよろ走る。
おねえさんに教えてもらった雑貨屋風の店で運動靴を購い、サンダルと履き替える。上半身も安全に留意しなければ、と思い、Tシャツの上から長袖のシャツを着る。これで足元も上半身もビシッと決まった安全ライダーだ。道には、Tシャツに短パン、サンダル履きというライダーがうようよ走っている。
ふっ、ダメだなあ、キミたち。安全はライダーの基本だヨ。そう思いながら、いよいよ父島周遊ツーリングが始まった。
特にルートは決めていないが、島を周遊する道は一本しかない。まずはメインストリートを山手へと折れる。
いきなり急勾配の上り坂。タイトなコーナーの連続。
車の姿はほとんど見かけない。次第に慣れてきて、快調にコーナーをクリアする。
道ばたにはガジュマルをはじめ、南国の草木がいっぱい。昔、行った沖縄ツーリングを思い出しながらブイブイ走る。バイクで風を切っていても暑い。非常に暑い。
しばらく走ると、右手に白いパラボラアンテナが見えてきた。
バイクを停める。国立天文台VERA観測所である。抜けるような青空に白いアンテナが眩しい。
奥に見える建物が何やら賑わっている。建物を覗くと「ちょうど今、サイエンスツアーの皆さんが説明を聞いているので、よろしければご一緒にどうぞ」と招じ入れられた。
団体さんといっしょに説明を拝聴する。ここ10年ほどで国立天文台は様変わりし、積極的にに公開を行うようになった。たいへん素晴らしいことで、今や国内で最もフレンドリーな研究機関となっている。
ひととおり説明を伺った後、ふたたびバイクにうちまたがる。コーナーを攻めつつ、山をぐんぐん下ってゆく。
そう、これがけっこう怖いのだ。相当の急勾配なのだが、2ストのスクーターだからエンブレが効かない。かといってブレーキングしっぱなしではフェードしてしまう。
それでも、ひらりひらりとコーナーをクリアするうち、道は海沿いとなった。
道のあちこちに大きなカエルが干からびてぺしゃんこに潰れている。よほどたくさんいるのか、どこまで行ってもカエル、またカエルである。
やがて、左手に川が寄り添う。清流、とはいえない。熱帯のジャングルを流れている川の色をしている。説明板を読むと、本当にジャングルの川で、生ぬるい水の中にはさまざまな亜熱帯の魚や生き物が棲息しているらしい。
川に沿って走ることしばし、『小港海岸』に到着。
先ほどの茶色い川が広い入り江に流れこんでいる。海は紺碧。抜ける青空。濃厚な緑と潮の香り。
バイクを降りて、しばらく光あふれる海を眺める。サングラスでもかけていないとあまりの眩しさに目がおかしくなりそうだ。
バイクにまたがり、海岸沿いをしばらく北上。ひときわ熱帯樹が生い茂った一角にバイクを乗り入れる。亜熱帯農業の活用研究施設である。
しばらく施設を見学し、施設を貫く狭い道をぐんぐん下る。やがて行く手に青い海が垣間見えるようになり、海に突っこむ直前で道がなくなる。
エメラルドブルーに輝く海と白い砂浜。澄んだ大気が夏の日ざしにきらめく。人影の見えない静寂の渚に、やはり茶色く濁った小さな川が吸いこまれ消えている。
『コペペ海岸』は、想像以上に美しい場所だった。サイパンや沖縄で見た南国のビーチに勝るとも劣らない。何よりも人がいないのがいい。かすかな波音だけが聞こえる静けさのなかで、心の奥底まで透明な日ざしが降り注いでくる。
小さな東屋に憩っていたカップルがいなくなると、一人で来ているらしい若い女性と私だけになった。いつの間にか眠ってしまった女性に荷物番をしてもらうことにして、私は泳ぐ。遠浅の海底は珊瑚に覆われ、珊瑚の間を小魚が群れをなして泳いでいる。
このままいつまでもこの海岸に佇んでいたいがそうもいかない。再びバイクの人となる。靴を購入したときの心がけはどこへやら、泳いだ後で体も心も潮まみれなのに加え、めったやたらと暑いため、スクーターを駆る私の姿はいつの間にやらTシャツにサンダル履き。走り出したときの安全意識はもうどこにもない。体も心もダラダラである。
いつのまにか行く手に黒い雲が広がってきた。『コペペ海岸』で出会った中年の旅人と一緒に走る。「午後は雨らしいですよ」と彼が言う。
入り江に沿って走る。自衛隊の護衛艦が停泊している。その向こうに、わが「ふじ丸」が見える。
青い海に茶色い骸をさらしている戦争中の輸送船。道路沿いにもあちこちに戦争中の壕の跡が目につく。
道ばたの藪が動いた、と思ったら白黒のヤギが現れた。無心に草を食んでいる。黒い大きなその瞳。
小雨が降り出した。見覚えのある風景が広がる。出発地である二見湾だった。島を一周するのは意外なほどたやすかった。本当に小さな島なのだ。
戦跡をいくつか回ると、いよいよ空は暗い。ライダーの直感で「あと数分でスコールが来る」と悟った私は、急いでバイクを返却した。給油したガソリンは0.9リットル。燃費走行を心がけていたとはいえ、島の小ささを物語る数値である。
バイクを返却して土産物屋に飛びこんだ直後、豪雨が降り出した。月並みな表現ではあるが、バケツをひっくり返したような雨である。
土産物を買い終えてもまだ止まない。店には次第に客が増えてくる。豪雨に閉じこめられ、店の外に出られないのだ。大半は「ふじ丸」の乗客なので、世間話をしながら雨が止むのを待つ。
雨は1時間ほどで止んだ。とたんに射るような日ざしが差し始める。
ピストン輸送の漁船に乗って父島を後にする。半日しか滞在しなかったのに、遠ざかる島が何とも懐かしい。またいずれ来よう。潮風を浴びながら思う。
前方に迫る「ふじ丸」。海上に浮かんだビルのようなその姿も懐かしく頼もしい。
短かった父島滞在だが、久々に熱いライダースピリット(?)と透明な感性をよみがえらせてくれた一日であった。