●父と猫のこと
動物にとても好かれる人がいます。
反対になぜか嫌われる人も・・・。
私の父は、動物にはあまり好かれそうにない人でした。
生真面目で頑固で融通が利かず、仕事一途で気が利いた冗談も言わず・・・。
もちろん、動物が好きだなんて一度も聞いたことはありません。
動物を飼っていたということも。
そんな父が数年前、拙宅に遊びにきました。
娘(父から見れば孫ですね)に誘われるまま猫部屋に入った父に対して、おそらく猫たちは嫌いこそしないものの無反応だろうと思っていたのですが・・・。
意外や意外、父は部屋に入るなり猫たちに取り囲まれてしまいました。
どの猫も父の足に顔をすり寄せ甘えています。
これには私も娘も驚いてしまいました。
父はといえば、半ば困惑し半ば照れ臭そうなようすで、猫たちを不器用に撫でたりしています。
娘によれば「みんな、おじいちゃんをパパと間違えているんだよ。顔も似てるし、なんというか、においが同じなんじゃないかな」とのこと。
私と父は、姿かたちは確かに似ています。
それでは、においは、といえば・・・。。
娘が言う「におい」は、「匂い」だけではなくて人格全体から漂う雰囲気という意味もあるようなのですが、不真面目でいい加減で二重人格で仕事は嫌いで、という私と謹厳実直な父とはおよそ似つきません。
「でも似てるんだよ」
そう娘は言います。
私と父が似ているのかどうかは今でもよくわかりませんが、最近、父のことを、実はとても優しい人だったんだなと思うようになりました。
動物は優しい人を本能的に察知します。
人間相手のように、言葉で信じこませたり騙したりすることはできません。
戦後の高度成長期を懸命に生きてきた父は、自分と家族を養っていくのが精一杯で、器用に生きる余裕など全くなかったのでしょう。
息子の私でも知ることができなかった父の本当の姿を、猫たちは一瞬で理解したのだと思います。
今でもときどき、猫たちに囲まれて笑っている父の姿を思い浮かべます。
父は2年前、肺癌で亡くなりました。
末期癌の痛みに一言も弱音を吐かず、最後まで人としての尊厳を保ったまま、帰らぬ人となりました。
