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2010年06月21日

●中央アルプス千畳敷、氷雪の一夜①

久々に掲載する未公開観測記。
今回は、天文雑誌の取材で出かけた天文登山の紀行です。
リベンジを果たしたい星見旅行はいくつかありますが、今回掲載の中央アルプス登山もそのひとつ。
そんな爆笑と涙に彩られた「男の天文登山」を3回に分けて掲載します。
お楽しみいただければ幸いです。(同行したメンバーは、泣きながら思い出に浸って下さいませ・・・)


  ☆  ☆  ☆

 人影まばらな早朝の中央本線、高尾駅。鳥のさえずりだけが、初夏の大気をかすかに震わせる。
「10円玉、みーっけ!」
 静寂と、ほのかな旅情を土足で蹴倒すように響いたのはIgawa氏の大声であった。
「ほら、見ろよ。ベンチの下に10円玉が落ちてるぜ!」
 ホームのベンチの下に潜りこんだIgawa氏、目にもとまらぬ素早さで10円玉を拾い上げ、「これで110円儲けた」。
 実はIgawa氏、20分ほど前にも立川駅のホームで100円玉を拾っているのである。
「みんなで探そうぜ。他にも落ちてるかもしれねえからよ」
 こと金銭に関しては抜群に高感度という目を更に超増感しながら、Igawa氏、周囲を見回している。氏の姿を見ているホームの乗客すべてが爆笑している中、当のIgawa氏だけは真剣である。

 そんなIgawa氏と、じーさん、akapi、山吉、そして私の5人は、朝5時の高尾駅で、天文雑誌編集部のカメラマン、イエティ氏を待っていた。
 その天文雑誌編集部から取材の依頼があったのは、4月初旬のことだった。
『星とアウトドアの雑誌を出すことになりましてね。東大和天文同好会の皆さんに中央アルプスで満天の星を見てもらい、記事を書いて欲しいんですよ』
 魅力的な申し出である。3000m級の高山で見る星空は、さぞかし素晴らしいことだろう。
 会長だった私は、即座に申し出を承諾した。それから数次にわたる打合せの末、5月の連休に星見登山を行なうことが決定し、私たちは西へ向う列車とイエティ氏を、今こうして高尾駅のホームで待っているのであった。

「あっ!50円!」
 Igawa氏の大声がふたたび響いた。氏の指さすあたりを見ても、私には50円玉の姿など見えぬ。
 階段を飛び降り、すぐに戻ってきたIgawa氏のてのひらには、しかし、しっかりと50円玉が握られていた。
 氏は、尚も捜索を続けている。私を含めた同行4名は、ひたすら他人のふりをしていたものの、それでもいたたまれない思いであった。
 結局Igawa氏は、合計180円を拾得し、その金でホームの自販機からコーヒーを購入した。
「恐ろしい野郎だ・・・」
 美味そうにコーヒーを飲むIgawa氏の傍らで、山吉がうめくように呟いた。

 まもなくイエティ氏が到着した。がっしりとした体躯に撮影機材を詰めこんだフレームザックを背負ったイエティ氏、まさにその愛称が相応しい山男だ。
 爽やかな笑顔で近づいてきたイエティ氏、キラッと白い歯を輝かせて『天文登山を楽しみましょう!』とでも言い出すかと思ったら、
「なんか曇ってますよ。ほんとに行くんですか。だるいっすね」。
・・・思い切り脱力。
 そう、見上げる空は快曇である。現地の天気予報も思わしくない。
「なんだか悪い予感がしますよ。今からでも遅くないからやめましょうよ、ね」
 ごつい外観に似つかわしくなく、しょっぱなから弱気なイエティ氏、しきりに計画の撤回を勧める。
「まあ、仕事ですからね」
 根が真面目な私はそう答えた。
 しかし、そう答えたことを、半日後、私は深く後悔することになる・・・。(つづく)

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